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旅、映画、食べ物、哲学?

散歩

無口な海

私の経験上、海が何か答えを出してくれたということはまずない。何か悩みを抱えて海までたどり着き、海を眺めるうちに、答えが出ることはほとんどない。 だけど、海は口数を減らしてくれる。それだけは確実なことだと思う。つまり、常日頃私たちはしゃべり過…

湯島聖堂に入る、また楽しからずや

今年の春だったか、フランスの国立行政学院、通称ENAが廃止になるというニュースがあった。 フランスといえば、「自由、平等、博愛」。その建前はもちろん生きているとはいえ、フランスの政治の中心は、ENAを出たエリートがほとんどで、そこに批判が集まって…

柳川横町を探せ

日本の歴史の中で、名前がちょくちょく登場するにもかかわらず、知名度も人気度もさほどではない人物。それが榎本武揚である。私はそんな榎本武揚という人物に高校時代からハマっている。 ここで榎本武揚話をくわしく続けるつもりはない。というのも今回は、…

馬喰町の謎

バクロ町という場所がある。 馬を喰らう、と書いて、バクロと読む。随分と禍々しい名前である。それだけに、どんな由来があるのか、無性に気になってしまった。 *************************************** 三週間ほど…

暗夜行路〜霜月江戸前一巡道中・其三〜

蒲田のタリーズコーヒーを一歩外に出た時、足の異変に気がついた。踵の当たりが擦れていて痛い。靴で圧迫された足の側面もジンジンしている。こんなにやわだったのかと、自分の力無さにため息を打ち、とにかく多摩川を越えるくらいのことはしようと前へ進ん…

一号線を「南下」せよ 〜霜月江戸前一巡道中・其一〜

東京湾を一周してみよう、と思いたったのはいつのことだったろう。 私にとって旅することは、一種の薬のようなものだった。疲れを取る薬では無い。好奇心を満たすためだけでも無い。好奇心に関してはそう言う側面もある。だが、私にとって旅することは、なん…

魔境あるいは古本屋

そんなに古本屋が好きなわけではなかった。ブック・オフには自分の興味がある本がなさそうだったし、個人経営の古本屋には個人経営特有の緊張感というものがあって、どうもそこに飛び込もうという気にならなかったからだ。だが、それだけではなく、あまり古…

口きかぬ街

ちょっと野暮用があって、東京駅の方へ行った。至急出さねばならぬ書類があり、大型連休中のため、郵便局の本局に行かざるをえなかったのだ。 2020年の初頭、人類を悩ませた流行病のせいで、街には人通りがほとんどなかった。しかし皆無ではない。私のように…

自分探しの旅

インドに自分なんていないんだから、自分探しの旅は無意味だという意見がある。確かにそうかもしれない。なにせ、自分というものは常にそばにあるからだ。インドに行って、アフリカに行って、世界を一周して、シベリア鉄道に乗って、アメリカ横断して、見つ…

ロスト・イン・新宿〜街は生きている〜

散歩の面白さの一つは、知っている町が知らないところにガラリと変わって見えることにある。私たちが普段歩く道は、ほとんどの場合、目的地に行くための最短経路だから、見逃している景色がたくさんある。しかし散歩には多くの場合目的地などないのだから、…

ちょっと違う見方の練習

それはカナダに行ったときのこと。 モントリオールのショッピングモール回りをする企画には興味が持てなかったので、わたしは一人、街に出ることにした。適当に歩いたりしながら、わたしはある公園にたどり着いた。今でも名前を覚えているが、それはサン・ル…

本質と音楽〜哲学所感3〜

まずあらかじめ断っていくが、今回は少々突飛なことを言おうと思う。日常生活で普通とされていることを裏切ろうとしているのである。だがそれは必要な裏切りだ。そして素晴らしい裏切りだと私は信じている。 その前に、ちょっと話を振り返っておこう。第一回…

Добър Спомен〜ソフィア③〜

ソフィアでやることはもはや枯渇していた。だがホテルもとっていないので、帰るところもない。帰るところがないというのはゾクゾクを超えてワクワクするものだが、こういう場合は困ってしまう。どこか一休みできるカフェはあるか。そう思いながら眺めてみて…

An Invitation from Mr Blue Sky and Madame Pluie

An Invitation from Mr Blue Sky 例えば、家の外に出たら空が見えるだろう。その時、空が雲ひとつなく青かったとする。青かったというのは正しくもあり、間違いでもある。色のニュアンスは言葉で説明しきれない。だからここで「青かった」というのは、公認さ…

Синьо Небе〜ソフィア ②〜

NDKこと、国立文化宮殿は、繁華街になっているヴィトーシャ通りをまっすぐ行ったところにある。観光地の割には人影がまばらなこの通りは、今まで歩いてきたソフィアの地区と比べれば、穏やかな空気が流れており、いい感じである。レストランが軒を連ねる道の…

殺伐とした叡智の町〜ソフィア①〜

バスを降りた瞬間、違う世界にいると悟った。まず空気が違う。突き刺すように朝の空気は寒い。ギリシアの暖かい気候とは違う。それに、バスターミナルのカフェテリアのおばちゃんは無愛想で、英語が通じない。そんなことは当たり前である。ここは英語圏じゃ…

And Then, There were None〜アテネの孤独〜

一人旅が性に合っていると思っていた。それは多分そうなんだと思う。だが、今まで7人もいたのが、一気にいなくなるとなると話は変わってくる。ソフィアに発つ日、私は孤独のどん底に突き落とされ、不安に震えた。一人で台風を台湾で二つもやり過ごし、バルセ…

η νέα Αθήνα〜ヨーロッパの祖にしてヨーロッパならざる場所〜

アゴラをあとにした後、私たちが入ってみた教会は今までに見たことのない風情であった。正教会というと、私は二度目になるが、事実上初めてと言えるだろう。というのも、以前中に入ってみたモスクワの聖ヴァシリー大聖堂は、中に部屋がたくさんあって、正直…

不滅のアテナイ

アクロポリスの丘を降りて、私たちは行くあてもなく、日差しの差し込むアテネの観光地を歩いた。出てきたのはバスの停車場などがあるところのようで、ガランとしている。無数のシャボン玉を作る大道芸人がいて、そのシャボンに包まれながら、まるでニンフか…

南米かっ!〜アテネの夜の冒険〜

アテネのホテルはびっくりするくらいいいところだった。一人三千円くらいだが、中高級ホテルの風格がある。それに真っ先に気付いたのは、着いて早々ウェルカムドリンクとしてしぼりたてのオレンジジュースが配られた時である。暑かったし、ありがたい。ウェ…

素朴な魅力〜バーリ・イタリアの旅の終わり〜

「カステル・デル=モンテに行くにはどうしたらいいですか? 確か冬はタクシーしかないって」 「そうだね、遠いよ。バーリの町には来たことあるのかい?」 「いえ、初めてですが」 「じゃあ、バーリを見なさい。港もあるし海も綺麗だ。今日は天気もいい」 ロ…

まだ死ねない〜ナポリ〜

サンタンジェロ城を一人で見た後、私は三人の友人とナポリへと向かった。 イタリアはこれで3度目になるが、いわゆる南イタリアには一度も行ったことがなかった。ナポリ行きを決めたのはそれが理由である。一人でも行くつもりだったが、なんやかんやで四人に…

一瞬の北京

この、明らかにクレイジーと言える旅程は、完全に私の気の迷いから発したに過ぎない。常々夢想してきた「男の子の夢」ともいえようものを実現させてみただけだ。つまり、ヨーロッパを旅した後に、「ああ、帰りたくないなぁ、このまま東南アジアにでもいって…

運を天に任せ

散歩に出よう。 そう思ったは良いが、行き先が見当たらない。最近はよくあることだ。色々歩くようになって、あそこもここも行ったことがあるという状況なのだ。もちろん、本当に行ったことがあるかは定かではないし、東京も広いのだから、全部行ったなどと豪…

旅と自由

ブログに書いたかどうかは忘れたが、以前、散歩中に迷ったことがあった。 その日は大学の授業が13時30分からあったのだが、昼食の海鮮丼定食を待っていたら、授業に5分ほど遅刻する時間になってしまっていた。その授業に魅力をあまり感じなくなってきていた…

アジアの香り〜大阪〜

初めての大阪だった。 というと、驚かれることが多いが、国内旅行そのものが、3年ほど前に行った函館以来だったのだから、大阪が初めてでもおかしくはない。だが、不思議なのは、私は関西系のルーツしか持っていないにもかかわらず、大阪という土地に行った…

18都市目:モスクワ(2)〜До встречи!〜

トゥヴェルスカヤ通りの付け根にある革命広場駅から、スモレンスカヤ駅を目指す。相変わらずエスカレーターが深い。ゆったりとした旅なら良いが、アルバート通りでパッと食べて、クレムリンに戻ってきたかったので、これが鬱陶しい。革命広場駅は、装飾が無…

18都市目:モスクワ(1)〜Снова в СССР?〜

シャルル・ド・ゴール空港からアエロフロートで空を飛び、モスクワはシェレメチエヴォ空港まで三時間。夜も遅いフライトなので多少は眠ったが、時差を換算していなかったがために、5時間寝るつもりが3時間しかなく、寝不足感は否めない。フライト中膝の上に…

16都市目:パリ(4)〜Time To Say Goodbye〜

ジャズクラブでパリの夜を締める前、私は移民街散歩を敢行した。もともと移民街という場所が好きだった。それは単純にこの前パリに来た時に移民街に泊まっていたからかもしれない。前回のパリでは、私はパリ北駅からより北上し、インド人街を抜けたところに…

16都市目:パリ(3)〜Comme le temps passe〜

パリのアパルトマンを出た後は、哲学科としては外せない、パスカルの故郷「クレルモン=フェラン」へ行く予定だった。しかし、パリのアパルトマンで、皆気が変わってしまった。パリは五日では回れないのだ。さらにパリは魅力的だった。だから、私たちはパリの…