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旅、映画、食べ物、哲学?

ヒッポドロームのおじさん

イスタンブル旧市街のど真ん中に、スルタンアフメット地区はある。 泣く子も黙るアヤソフィアにブルーモスクといった「イスタンブルといえばコレ」的な観光地の数々に取り囲まれて、ヒッポドロームという広場がある。この広場がスルタンアフメット地区の中心…

短文:ドミトリー

私はドミトリーというものがあまり好きではない。 そういう風に堂々と言えるようになったのもわりと最近のことである。 ドミトリーというのは、安宿の一種で、二段ベッドのようなものが一部屋に並んだ作りをしている。バックパッカーといえばドミトリーに泊…

暗夜行路〜霜月江戸前一巡道中・其三〜

蒲田のタリーズコーヒーを一歩外に出た時、足の異変に気がついた。踵の当たりが擦れていて痛い。靴で圧迫された足の側面もジンジンしている。こんなにやわだったのかと、自分の力無さにため息を打ち、とにかく多摩川を越えるくらいのことはしようと前へ進ん…

一号線を「南下」せよ 〜霜月江戸前一巡道中・其一〜

東京湾を一周してみよう、と思いたったのはいつのことだったろう。 私にとって旅することは、一種の薬のようなものだった。疲れを取る薬では無い。好奇心を満たすためだけでも無い。好奇心に関してはそう言う側面もある。だが、私にとって旅することは、なん…

異邦人たること〜安部公房「内なる辺境」を読んで思い出したこと〜

大学一年生の時、プラトンの『ソクラテスの弁明』を読まされた。そしてその内容について、軽く発表を、というわけだ。もちろん一気に全部読むわけではなく、何回かに分けて読むわけだが、私は運が悪いことに、初回に当たってしまった。とはいえ、最初に読む…

イスタンブル・マジックアワー

世の中にはたくさんの街があるが、それぞれの街にはめいめいの時刻があると思う。つまり、その街が最も美しく見える時間帯のことである。 例えば、ハノイは朝が美しい。朝もやがかかったホアンキエム湖、立ち上る湯気に感じるフォーのにおい。人々の活気も、…

自分探しの旅

インドに自分なんていないんだから、自分探しの旅は無意味だという意見がある。確かにそうかもしれない。なにせ、自分というものは常にそばにあるからだ。インドに行って、アフリカに行って、世界を一周して、シベリア鉄道に乗って、アメリカ横断して、見つ…

ちょっと違う見方の練習

それはカナダに行ったときのこと。 モントリオールのショッピングモール回りをする企画には興味が持てなかったので、わたしは一人、街に出ることにした。適当に歩いたりしながら、わたしはある公園にたどり着いた。今でも名前を覚えているが、それはサン・ル…

家に帰らないといけないのか

わたしはレストランの予約もしないし、映画のオンライン予約もめったなことがないとしない。なぜなら、予約をすれば、心配事はひとつ消えるかもしれないが、その代わり義務がひとつ増えてしまうからだ。どこかに行かなければいけない。自由な気持ちで歩いて…

本質と音楽〜哲学所感3〜

まずあらかじめ断っていくが、今回は少々突飛なことを言おうと思う。日常生活で普通とされていることを裏切ろうとしているのである。だがそれは必要な裏切りだ。そして素晴らしい裏切りだと私は信じている。 その前に、ちょっと話を振り返っておこう。第一回…

Добър Спомен〜ソフィア③〜

ソフィアでやることはもはや枯渇していた。だがホテルもとっていないので、帰るところもない。帰るところがないというのはゾクゾクを超えてワクワクするものだが、こういう場合は困ってしまう。どこか一休みできるカフェはあるか。そう思いながら眺めてみて…

映える写真、臭わない記憶

時々、Facebookなどを見ると、誰かの旅行先の写真が載っていることがある。稀に、そうした写真の一部は、私も以前行ったことのある土地のもので、そうすると、ちょっと見てみようかなという気持ちになる。だが大抵の場合、言いようもない違和感が待ち構えて…

『最後の審判』とカツレツ

誰しも教訓となることの一つや二つある。かのシャーロック・ホームズも、自らが尊大な振る舞いをしたら、自身の推理が外れた事件を思い出すために「ノーバリ」という地名を耳元で囁いてくれ、と言っている。エルキュール・ポワロにとってのそれは「チョコレ…

An Invitation from Mr Blue Sky and Madame Pluie

An Invitation from Mr Blue Sky 例えば、家の外に出たら空が見えるだろう。その時、空が雲ひとつなく青かったとする。青かったというのは正しくもあり、間違いでもある。色のニュアンスは言葉で説明しきれない。だからここで「青かった」というのは、公認さ…

Синьо Небе〜ソフィア ②〜

NDKこと、国立文化宮殿は、繁華街になっているヴィトーシャ通りをまっすぐ行ったところにある。観光地の割には人影がまばらなこの通りは、今まで歩いてきたソフィアの地区と比べれば、穏やかな空気が流れており、いい感じである。レストランが軒を連ねる道の…

殺伐とした叡智の町〜ソフィア①〜

バスを降りた瞬間、違う世界にいると悟った。まず空気が違う。突き刺すように朝の空気は寒い。ギリシアの暖かい気候とは違う。それに、バスターミナルのカフェテリアのおばちゃんは無愛想で、英語が通じない。そんなことは当たり前である。ここは英語圏じゃ…

And Then, There were None〜アテネの孤独〜

一人旅が性に合っていると思っていた。それは多分そうなんだと思う。だが、今まで7人もいたのが、一気にいなくなるとなると話は変わってくる。ソフィアに発つ日、私は孤独のどん底に突き落とされ、不安に震えた。一人で台風を台湾で二つもやり過ごし、バルセ…

η νέα Αθήνα〜ヨーロッパの祖にしてヨーロッパならざる場所〜

アゴラをあとにした後、私たちが入ってみた教会は今までに見たことのない風情であった。正教会というと、私は二度目になるが、事実上初めてと言えるだろう。というのも、以前中に入ってみたモスクワの聖ヴァシリー大聖堂は、中に部屋がたくさんあって、正直…

不滅のアテナイ

アクロポリスの丘を降りて、私たちは行くあてもなく、日差しの差し込むアテネの観光地を歩いた。出てきたのはバスの停車場などがあるところのようで、ガランとしている。無数のシャボン玉を作る大道芸人がいて、そのシャボンに包まれながら、まるでニンフか…

死ぬまで幸福かどうかなんてわからない〜地下鉄事件とアクロポリス〜

朝になると、街の様子がよく見えるようになった。ホテルを出て、考古学博物館の横を通ると、手榴弾やら催涙弾やらが、熟れたオレンジと一緒に落ちている。やはり昨日の銃声は本物のようだ。街を歩くと、壁という壁に落書き。まるで、耳なし芳一の如しである…

南米かっ!〜アテネの夜の冒険〜

アテネのホテルはびっくりするくらいいいところだった。一人三千円くらいだが、中高級ホテルの風格がある。それに真っ先に気付いたのは、着いて早々ウェルカムドリンクとしてしぼりたてのオレンジジュースが配られた時である。暑かったし、ありがたい。ウェ…

ἐκ Πατρῶν εἰς ᾽Αθῆνας〜パトラからアテネへ〜

パトラからアテネまでは電車が断絶している。だから、中間地点のキアトまでバスで接続しないといけない。そのバスはというと、パトラ駅の前から出ていた。さっと食事を済ませ、バス停まで行くと、運転手はむすっとした顔で、早く荷物を入れろという。もう出…

チケットとスヴラキと優しさ〜パトラ〜

パトラの港の使い勝手はバーリのそれと比べて格段に良かった。船から降りて少し歩いたところにシャトルバス乗り場があり、そのバスに乗れば、すぐに中心部まで運んでくれる。ただ、もしかすると、気づかなかっただけでバーリにもあったのかもしれない。 パト…

Εδώ έρχεται ο ήλιος〜地中海航路 その2〜

「乗客の皆様。まもなく、我々はイグニメッツァ港に到着いたします。乗客の皆様はお忘れ物のありませんよう、お降りください」 朝5時30分ごろ、やけに大きな音のアナウンスで私は目を覚ました。降りなければいけないのか? でもイグニメッツァといえば、コル…

Italia Bella Ciao!〜地中海航路 その1〜

祖父は船会社を営んでいた。そのせいか、船の旅というものに漠然とした憧れがある。船はすごい。この地球の七割が海だというから、船を使えば脚を使う以上にどこまでも世界を巡ることができる。 船体験は今年の3月までは、3度ほどあった。まずは伊勢の方から…

素朴な魅力〜バーリ・イタリアの旅の終わり〜

「カステル・デル=モンテに行くにはどうしたらいいですか? 確か冬はタクシーしかないって」 「そうだね、遠いよ。バーリの町には来たことあるのかい?」 「いえ、初めてですが」 「じゃあ、バーリを見なさい。港もあるし海も綺麗だ。今日は天気もいい」 ロ…

まだ死ねない〜ナポリ〜

サンタンジェロ城を一人で見た後、私は三人の友人とナポリへと向かった。 イタリアはこれで3度目になるが、いわゆる南イタリアには一度も行ったことがなかった。ナポリ行きを決めたのはそれが理由である。一人でも行くつもりだったが、なんやかんやで四人に…

最初の晩餐〜ローマ(1)〜

ローマは思ったより寒かった。 以前一度冬に訪れたことがあったが、あれはミラノやヴェネツィアなど北部の町を訪ねた後だったからか、心なしか、暖かく感じた。だが、ローマはローマで寒い。空気はしっとりしていて、ヨーロッパ特有のキーンとした寒さではな…

一瞬の北京

この、明らかにクレイジーと言える旅程は、完全に私の気の迷いから発したに過ぎない。常々夢想してきた「男の子の夢」ともいえようものを実現させてみただけだ。つまり、ヨーロッパを旅した後に、「ああ、帰りたくないなぁ、このまま東南アジアにでもいって…

旅と自由

ブログに書いたかどうかは忘れたが、以前、散歩中に迷ったことがあった。 その日は大学の授業が13時30分からあったのだが、昼食の海鮮丼定食を待っていたら、授業に5分ほど遅刻する時間になってしまっていた。その授業に魅力をあまり感じなくなってきていた…