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旅、映画、食べ物、哲学?

ラジオ

テレビドラマと映画がタイアップしている作品を見ると、ドラマ版と映画版とでは絵の雰囲気が違うのがわかる。技術的には、きっと、フィルムを使っているとか、使用する機材が違うとか、そういった物による違いだろう。だが、私のような純然たる視聴者からす…

アンダーグラウンド・タイフード

入ってはみたいが、入りづらい店というものがある。 それは常連でいっぱいだからだったり、店主が怖そうだからだったり、ドアがガッチリと締まっていたからだったり、閑静な住宅街の奥まったところにあるからだったりする。そういった店には人を寄せ付けない…

異邦人たること〜安部公房「内なる辺境」を読んで思い出したこと〜

大学一年生の時、プラトンの『ソクラテスの弁明』を読まされた。そしてその内容について、軽く発表を、というわけだ。もちろん一気に全部読むわけではなく、何回かに分けて読むわけだが、私は運が悪いことに、初回に当たってしまった。とはいえ、最初に読む…

魔境あるいは古本屋

そんなに古本屋が好きなわけではなかった。ブック・オフには自分の興味がある本がなさそうだったし、個人経営の古本屋には個人経営特有の緊張感というものがあって、どうもそこに飛び込もうという気にならなかったからだ。だが、それだけではなく、あまり古…

1+1+1+...+1=1

カレーを作ることにハマっている。ルーを買ってきて、煮込むわけではない。南アジア系の人が経営しているショップでスパイスを買い込み、動画サイトで理解できないヒンディーやウルドゥーやベンガリーでのレシピ動画を見ながら、レシピを確認し、できるだけ…

時計が壊れた

昨日、時計が壊れた。 私は自分の部屋に掛け時計を置いていて、時間の確認はたいていの場合その時計でやっているのだが、その時計が動かなくなった。 壊れたというと、語弊があるのかもしれない。 というのも、時計が壊れたというよりむしろ、電池が切れてい…

「すべき」と「したい」、あるいはやる気待ち

朝、めざめても、起き上がる気になれない。起き上がってしまえば、また消費される1日が始まるからだ。 暇なのではない。暇ならいい。だが残念なことに、心の奥で、何かが常に疼いているのだ。さあ、すべきことをしなさい。君にはすべきことがある。それをし…

彼らに話しかけてしまうのである

最近家族にはカミングアウトしたのだが、私は一人で家にいる時、テレビと会話している。なんなら、部屋ではYouTubeやラジオと会話している。 例えば、家族が家にいない時、よく高級料理の値段を当てるバラエティを見ていたのだが、私も不思議とそれに参加し…

口きかぬ街

ちょっと野暮用があって、東京駅の方へ行った。至急出さねばならぬ書類があり、大型連休中のため、郵便局の本局に行かざるをえなかったのだ。 2020年の初頭、人類を悩ませた流行病のせいで、街には人通りがほとんどなかった。しかし皆無ではない。私のように…

イスタンブル・マジックアワー

世の中にはたくさんの街があるが、それぞれの街にはめいめいの時刻があると思う。つまり、その街が最も美しく見える時間帯のことである。 例えば、ハノイは朝が美しい。朝もやがかかったホアンキエム湖、立ち上る湯気に感じるフォーのにおい。人々の活気も、…

5年前のペスト、現在の

面白いものを見つけた。 それは今からだいたい五年前に、私がラインのタイムラインに投稿した一つの感想文である。題材はアルベール・カミュの『ペスト』だった。 昨今、簡単に察しのつく理由でこの本の売れ行きがすごく好調だという。正直、読んだのは五年…

反抗と悲しみ

昔、国歌を聞くのにはまっていたことがあった。YouTubeにあるフィリピン国歌は、フィリピン政府かなにかの公式の動画であり、フィリピン独立に関わるシーンを集めた一種のプロモーションヴィデオになっているのだが、その中で印象的なシーンがあった。 スペ…

あえてこれを言うことを許してほしい、誰か一人くらいはこういうことを言っておいた方が健全なんだと信じてるから

警告には甘美な響きがある。 なぜなら、警告は、自分を一回り大人に見せてくれるからだ。それがいかに子供じみたことだったとしても、警告しているという行動自体に、大人らしさが滲んでいる。 「あの国は危ないから行くのをやめなさい」 「外は危険だから出…

創造的食文化

ちょっとくだらない話をしよう。 昔からずっと思っていたことなのだが、人類が忘れている驚異的な英雄がいる。カエサルやナポレオン、あるいはイエスやブッダなどを超えて、今でも多くの人々に恩恵を与え続けている英雄だ。私もその人の名前を知らない。一人…

自分探しの旅

インドに自分なんていないんだから、自分探しの旅は無意味だという意見がある。確かにそうかもしれない。なにせ、自分というものは常にそばにあるからだ。インドに行って、アフリカに行って、世界を一周して、シベリア鉄道に乗って、アメリカ横断して、見つ…

ロスト・イン・新宿〜街は生きている〜

散歩の面白さの一つは、知っている町が知らないところにガラリと変わって見えることにある。私たちが普段歩く道は、ほとんどの場合、目的地に行くための最短経路だから、見逃している景色がたくさんある。しかし散歩には多くの場合目的地などないのだから、…

ちょっと違う見方の練習

それはカナダに行ったときのこと。 モントリオールのショッピングモール回りをする企画には興味が持てなかったので、わたしは一人、街に出ることにした。適当に歩いたりしながら、わたしはある公園にたどり着いた。今でも名前を覚えているが、それはサン・ル…

23時50分の想い

「なぜ研究者にならないのか?」 とよく尋ねられる。私は今大学院にいるからだ。だが「大学にいても儲からない」「研究者になるのは難しい」等のよくある理由は私には思い浮かばない。そもそも、実を言えば、私はすごく大学院に入りたかったわけではない。 …

家に帰らないといけないのか

わたしはレストランの予約もしないし、映画のオンライン予約もめったなことがないとしない。なぜなら、予約をすれば、心配事はひとつ消えるかもしれないが、その代わり義務がひとつ増えてしまうからだ。どこかに行かなければいけない。自由な気持ちで歩いて…

新年の抱負について

あけましておめでとう。 2000年代が始まってから、もう20年も経ってしまったのかと驚いている。いや、たった20年だというかもしれない。だが、20世紀にたとえてみよう。1900年は英国、ドイツ、ロシア、そしてオーストリア=ハンガリーによる帝国の時代だった…

本質と音楽〜哲学所感3〜

まずあらかじめ断っていくが、今回は少々突飛なことを言おうと思う。日常生活で普通とされていることを裏切ろうとしているのである。だがそれは必要な裏切りだ。そして素晴らしい裏切りだと私は信じている。 その前に、ちょっと話を振り返っておこう。第一回…

スキマ時間と安息日

ここ最近ずっと違和感を覚えている言葉がある。それは、「スキマ時間」だ。CMを見ると、よくこんな言い方がされているのが耳につく。「スキマ時間を利用して……」「そのスキマ時間もったいない!」それはだいたい、ニュースアプリだったり、バイトアプリだっ…

冬になぜ寂しくなるのか?〜On Christmas〜

実際に対話したわけではないが、哲学対話で、「なぜ冬は寂しくなるのか?」という問いが出たことがある。するとすかさず、「それはクリスマスのせいだ」という答えをした人がいた。だがわたしは逆だと思う。冬は寂しくなるから、たぶん、クリスマスがあり続…

Добър Спомен〜ソフィア③〜

ソフィアでやることはもはや枯渇していた。だがホテルもとっていないので、帰るところもない。帰るところがないというのはゾクゾクを超えてワクワクするものだが、こういう場合は困ってしまう。どこか一休みできるカフェはあるか。そう思いながら眺めてみて…

幻想の家

徐々に明かりが消え、うっすらと画面が広がるのが見える。 しばらくすると画面は輝き、そして物語が始まる。 私たちはいつの間にか物語の中にいて、物語となっている。 夢か現か、現実か幻想か、そのはざまで揺れ動く。 それが映画だ。というか、映画館だ。 …

立場と発言は切り離せるか

二週間前くらいだったと思うが、「立場と発言は切り離せるか」というテーマで哲学対話を行った。例えば、警察官の子供が、もしとても道徳的ないし法的に正しいことを言ったとする。そうすると、周りの人は、「おとうさん警察官だもんね」というだろう。一方…

映える写真、臭わない記憶

時々、Facebookなどを見ると、誰かの旅行先の写真が載っていることがある。稀に、そうした写真の一部は、私も以前行ったことのある土地のもので、そうすると、ちょっと見てみようかなという気持ちになる。だが大抵の場合、言いようもない違和感が待ち構えて…

『最後の審判』とカツレツ

誰しも教訓となることの一つや二つある。かのシャーロック・ホームズも、自らが尊大な振る舞いをしたら、自身の推理が外れた事件を思い出すために「ノーバリ」という地名を耳元で囁いてくれ、と言っている。エルキュール・ポワロにとってのそれは「チョコレ…

イヤフォンについて

ポータブル型の音楽機器が発明されて、私たちはどこにでも音楽を持ち運ぶことができるようになった、と言われる。それまでは音楽はでかいスピーカーから流れるものだった。いやもっと昔に戻れば、楽器から発せられるものだった。そういう意味で、確かに現代…

An Invitation from Mr Blue Sky and Madame Pluie

An Invitation from Mr Blue Sky 例えば、家の外に出たら空が見えるだろう。その時、空が雲ひとつなく青かったとする。青かったというのは正しくもあり、間違いでもある。色のニュアンスは言葉で説明しきれない。だからここで「青かった」というのは、公認さ…