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Play Back〜ハードボイルド大学生活〜

ある大学生の日常をハードボイルドなエッセイ調に書く。

ロシュフォールの恋人たち

映画 哲学

わたしの月曜日は名画に始まる。何度も紹介してきた、例の「午前十時の映画祭」である。

今週、わたしが見たのは「ロシュフォールの恋人たち」というフランスのミュージカル映画である。監督・脚本はジャック・ドゥミ。全セリフが歌で表現される「シェルヴールの雨傘」でも知られる(三部作らしいのだが、あともう一つを知らない。「キャルフールの買い物かご」だろうか)。映画の原題は「Des moiselles de Rochefort」だから、本来は「ロシュフォールの娘たち」なのだが、どちらの題名でも問題はない。

この映画を見て思ったのは、全編カラッとしてるということだ。

まずミシェル・ルグラン作曲の音楽がスタイリッシュで、快活である。「キャラバンの到着(Arrivée des camionneurs)」という歌は非常に有名で、何かのコマーシャルでも使われていたはずだが、あれもスタイリッシュで快活である。おフランス、という感じである(?)。

また、その音楽のせいか、中身もカラッとしている。映画の中の世界では、かなりいろいろなことが起こっている。恋人に逃げられたり、男が捨てられたり、追いかけてみたり、駆け落ちしたり、はたまた、バラバラ殺人事件まで起こり、まさかの人物が逮捕されたりする。重くもできる内容を、とんでもなく明るく、カラッと描いてしまうのだからこの映画は凄い。

軽いだけかというと、そうではない。前述のようにとんでもない事件も突然起こる。そして何より、この映画は非常にうまく作りこまれている。最初は無関係だった人が全員つながってゆき、ある言葉が別の事柄を予言し、ちょっとした落し物がそのあとの展開を決定づける。最後まで目が離せない。そして、詳細をいうのは控えるが、最後まである意味ハラハラする。いや、やきもき、かもしれない。これ以上は言うまい。この映画の一つの醍醐味がそこにあるのだから。どことなく、カラッとしていて、最後にはいい気分になる上に、うまく作られている感じは、三谷幸喜の作品に似てなくもない。

はじめは、バレエに似たダンスと快活な音楽が流れる感じに慣れなくて、どうも入り込めないし、途中で出てくるジーン・ケリーは、どうしても「雨に唄えば」に見えてしまう。だが不思議と最後のシーンになるまでには、すっかり引き込まれてしまう。

この映画の中で、登場人物たちは、「理想の人」を探している。ある人はそれを夢想しながら絵を描き、ある人は出会いを求めてパリを夢見る。そしてある人は、その理想の人を街中で見つけ、ある人は理想の人を下らない理由で捨ててしまう。万有引力で物体と物体が引き寄せ合うように、人々は理想の人を求めて、理想の人へと近づいてゆく。それがこの映画を単純化してしまえば、図式である。

「時は金なりってあなたは目線で伝えるわ。でもあたしは違うの。あたしにとっては時は愛なり、よ」

というような歌詞があった。この映画が伝えたいのは、大事なのは「愛」なのだということだろう。そんなことはいろいろな映画で言われている、陳腐で、古臭くて、非現実的だ、という人もいるだろう。大事なのは愛だと思っている人も、理想の人を夢見る主人公たちには、「馬鹿らしい」「子供じみている」と思う人もいるかもしれない。

しかし、だ。夢を見ることの何がいけないのだろう。この映画は「愛」こそすべてだ、とその結末も含めて語っているように思われるわけだが、それ以上に夢の大事さも語っているような気がする。何かを夢見ることが、何かを変える契機になる。主人公の双子の姉妹の母が経営するカフェの店員は最後、「パリを見てみたいの」とパリ行きを決心する。その顔は夢に輝いている。

一方で、愛と夢の危うさもこの映画は語る。バラバラ殺人事件の話だ。それはある人の失恋に始まっているのである。理想の女性を夢見る男性に、主人公の一人が、「あなたはこういう事件を起こしそう」と言ってのける。現代的な視点から見ると、うん確かに、と特にこのご時世思ってしまう。そうでありながら、失恋しつつも、最後は綺麗に去る男もでてくるし、一度別れた二人の再会も描いている。

この映画は愛の全てを語り尽くそうとしているのかもしれない。夢と愛。その素晴らしさと儚さと、そして危うさ。いや、もしかすると本当の愛を語りたいのかもしれない。それは肉体を求めるだけのことではない。それは求め続けることではない。あるとても下らない理由で別れた二人が出てくるのだが、そのうちの女性がこういう。「共通の知人を通じて、わたしが金持ちのメキシコ人と結婚したって言ったわ。でもそれは悲しい嘘」嘘をついてしまうのは、相手を愛しているからだ。それは人を殺したいまでに好きになることや、欲情に走ることとは全くもって違う。

それを可憐なダンスと、軽快な音楽に乗せる。なかなかの名画だと思う。なにせ、あのテーマソングが頭から離れなくなる。その歌の歌詞ありバージョンは、この映画の道化役である二人組みの興行師の歌だ。彼らは他の人々と違って、口説いては断られ続けるし、最後に愛を獲得するわけではない。だが、歌って踊って楽しそうである。そういう生き方もある。それもまたこの映画が教えてくれることだ。

 

「Nous voyageons, de ville en ville...(俺たちは旅人さ、街から街へ……)」

 

ああ、またあの歌が離れなくなっちまった。


Arrivée des camionneurs