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ある大学生の日常をエッセイ調にかっこつけて書く。

1都市目:ストラスブール(2)〜戦争と平和の狭間の街〜

ストラスブールの教会は、歴史の積み重ねを感じさせる場所だった。赤みがかった石の一つ一つに歴史が刻み込まれている。天井の高い巨大な空間全体が、歴史を語っているようだ。そしてその古くから続く祈りの場にはなにやら神がいそうな気もしないでもなかった。静謐、荘厳。ここ以上にその言葉がふさわしい空間はない。

教会の構内の端には小さな部屋があり、そこにはなぜかコペルニクスのモチーフのされた巨大で程よく豪華な機械時計がある。時間になると何がしかのからくり装置が動き、時を知らせるらしく、大勢の人々がそれを待っている。私も待ってみたが一向に始まる予感はない。時計を見てみると、時計は半端な時刻を指している。どうやら、ここにいる人たちは待っているのではなく、余韻に浸っているようだった。私はその場を離れ、教会の中のベンチに座った。人々が祈るベンチに座ってこそ、教会の本当の効果がわかる。なぜなら、教会は信者が神を感じられるように作られているからだ。しばらく座り、祭壇を見つめると、そこにはやはり、何かがいるように思えてきた。

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教会を出ると、入る前には降っていた雨がひとまず止んでいた。だが、快晴とは言えない。空は曇り空。またいつか雨は降りそうである。私はキンと冷えた空気の中、ストラスブールの街を歩くことにした。あてもなく、ただ、ただ、心の行くままに。石畳から石畳へ。木と漆喰でできた建物から、石造りの建物へ。アルザス語の本がないかと本屋にも入ってみたが、どうやらなさそうだった。ホテルで紹介されたレストラン街に行ってみるが、時間も時間なので空いている店はない。あたりだけつけて、歩いた。

しばらく歩くと、木と漆喰の古い建物が川沿いに並ぶ静かな界隈にたどり着いた。後で調べると、そこは「プティット・フランス(小さなフランス)」というらしい。だが、その見た目はどう見ても、フランスというより、ドイツのロマンス街道である。川には船が浮かんでいて、遊覧船になっているようだ。ストラスブールの町は川で囲まれており、それが堀の役目を果たしている。だからきっとこの川を一周するだけでもだいぶ楽しいのだろうなと思った。だが、今回は節約旅行。あまりそういうものには手を出すまい。私はひとまず木と漆喰の街並みの方へと歩いた。

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しばらく街をうろついていると、私はいつの間にかクレーバー広場に戻ってきていることに気づいた。石畳のせいもあってだいぶ足が疲れていたので、私は広場の一角にある店に入って、ビールを頼んだ。アルザスはワインで有名だが、ドイツ文化が濃厚なのだ、ビールくらいあるだろう。案の定、出てきたビールは全く知らない銘柄で、さっぱりとした味わいの少し白く濁ったビールだった。「シュトリク」というらしい。疲れに染み渡る味である。フランスやスペインはワインの国だが、足が疲れている時や、暑いときはいかんせんワインは重っ苦しい。古代ローマ人はワインに水を混ぜていたというが、確かにワインだけでは「飲み物」としてはあまり良くないような気がする(食べ物に合わせるのには抜群だが)。そういうときはどうしてもビールが良い。

会計を済ませ、再び街に出た。そろそろ夕飯の時間だ。レストラン街に戻ってみたが、当たりをつけたとは言え、どこに行けばいいのかよくわからない。アルザス名物は「シュークルート」。シューはキャベツ、これは要するにドイツ名物「ザウアー・クラウト」のことだ。酸っぱいキャベツの漬物である。漬物だけか、と思うことなかれ。この漬物に、ソーセージやベーコンやジャガイモを合わせるのがシュークルートだ。とはいえ、完全にドイツ料理であることに変わりはない。だが、ここにきたからにはこれが食いたい。

そうはいっても、どの店も大抵は置いているようだ。私は値段と雰囲気で選ぶ作戦を決行した。趣のあるレストランはあまりに高く、安い店は観光地っぽすぎる。そうやって色々と選別する中で、私は川に近いアルザス風の漆喰と木の建物にある「ヴィンシュトゥプ(ワインを出す大衆居酒屋)」を見つけた。そこのシュークルートはそれほど高くなかった。しかも雰囲気もいいし、店内にそれなりに人もいる。雨脚が突然強くなったこともあり、私は店に入った。

「ボンソワー(こんばんは)」と言いながら店に入ると、声の高い若いんだか歳をとっているんだかよくわからない店員が出てきて、席に案内した。せっかくなので私はシュークルートともにアルザスワインを頼んでみた。ドイツのワインと同じく、白ワインが充実しているみたいだ。

ワインとともに、プレッツェルのお菓子が出てきた。いよいよドイツである。私はワインをちびちび飲みながらプレッツェルを食べた。面白いのは、店内の空間はドイツっぽさがあるのは当然だが、店員同士はドイツ語に限りなく近い言葉で会話をしていることだ。そして、接客のときはフランス語に切り替わる。

しばらくするとシュークルートが出てきた。ものすごく多いが、かつてドイツに住んでいた身としては何処と無く懐かしい香りがした。真ん中に盛られたキャベツの漬物の周りに、太い二本のソーセージと分厚い二枚のベーコンが置かれ、ジャガイモがその周りに陣取っている。

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写真で見るとそうでもなさそうだが、一つ一つがヘヴィーなので、初めはうまいうまいとパクパク食べていても、最後のベーコンくらいになると、ちょくちょく休まないと食っていられなくなる。途中でワインが底をつき、ペリエを頼もうと手を挙げると、

「食べ終わったの?」と店員が言ってきた。アジア人と思って舐められては困る。私は首を振り、ペリエを頼み、休みながらもなんとか大量のベーコンを食いきってやった。

アルザス語で「セテ・デリシウ(おいしい)」ってなんていうんですか?」と、私はコーヒーを頼む時に聞いてみた。

「ゼーシュ・グート」と店員が言うので、わたしは

「ゼーシュ・グート」と言ってみた。完全に、ドイツ語ではないか。店員はにっこりと笑って、「メルシー」と言った。

不思議なもので、苦いエスプレッソコーヒーを飲めば、どんなに大量の料理を食べた後でも、スッキリして、完全復帰できる。私は会計を済ませ、まだうっすらと明るいストラスブールの街に出た。ヨーロッパの夏の1日は朝7:30ごろに始まり、夜9:00ごろに終わる。夜9:00ごろにやっと日が落ちるのだ。もう8時くらいだったが、日本でいうなら5時くらいの明るさである。

ホテルに向かって歩いていると、喉が渇いているのに気づいた。それに、部屋で飲むための水も欲しかった。だが、スーパーのようなものが見当たらないし、ヨーロッパの街は8時を過ぎると機能を停止する。店はもうほとんどやっていない。これはこまったぞと思いつつ、私はクレーバー広場の当たりをぐるぐると歩いた。すると、救いの光のように、アイスクリーム屋がやっているではないか。水も売っているようだ。私はひとまずその店に入り、移民系の店員に、

「ドゥ・ロー、シルヴプレ(水、クダサイ)」と言った。すると店員は「£$^^$%^ブテイユ%^**(^*%&&^?」と聞いてくる。ブテイユとは「ボトル」のこと。私はうなづいて見せた。すると店員はコップを取り出し、蛇口をひねり始めた。そうか、私はブテイユではない方に頷いてしまったようだ。

「ノンノン、ブテイユ(チガイマス、ボトル!)」と慌てていうと、店員は一瞬戸惑ったが「ははは」と笑ってボトルの水を私にくれた。フランス語、まだまだだなあ、と思いながら、まあ1日目だ、こうやって成長する、と自分を励まして、私はホテルへと向かった。明日の朝は、ディジョンへ向かう。