Play Back

旅、映画、食べ物、哲学?

17都市目:ロンドン(2)〜London Recalling〜

ベーカー街といえばシャーロックホームズである。数年前BBCで始まった現代版の「SHERLOCK」が大ヒットして以降、この地を訪れた人も増えたと思う。というのも、私は小学六年生の頃、まだSHERLOCKも存在せず、ベネディクト・カンバーバッチも無名だった頃にシャーロックホームズを気に入り、「聖地巡礼」していたのである。あの時ももちろん、街にはシャーロッキアンがいたが、それでもやはり、現在の盛り上がりとは大きく違う。時の流れを感じさせるベーカー街は、街もまた生き物なのだなと改めて感じさせてくれる。

f:id:LeFlaneur:20180628164448j:image

さて、アビーロードからベーカーストリートまでは案外距離がある。その距離を過小評価していたため、朝から結構歩くことになったが、かえって気持ちの良い散歩になった。基本的にはリージェントパークという巨大な公園の横を歩けば良いのだが、工事中やら何やらで迂回に迂回をすることになった。だが、そうした中で見つけた知らないロンドンは静かで、住みやすそうな、いい街だと知ることができたのである。はじめて、素のロンドンを見ることができた、ような気がしている。それは、モスクを目にすることができたからかもしれない。ロンドンはパリを凌ぐ国際都市だが、今までそういうスポットは見たことがなかった。それが、歩いているときにたまたま左手に巨大なモスクが現れた。やはりここにもあるんだなと、ちょっとした安堵感を感じた。

さて、ベーカー街である。シャーロックホームズ関連のものがあるのは、ベーカー街はベーカー街でもベーカーストリート駅のそばの都心に近い方である。そこから離れたところは割と静かな通りになっていた。私は途中で見つけたビートルズショップで友人への土産を買い、駅の方へと歩いた。思い出の土地だ。

f:id:LeFlaneur:20180703185503j:image

そして、冒頭に戻る。ベーカー街は以前より混雑していた。恐るべし、ベネディクト・カンバーバッチ。恐るべし、ロバート・ダウニー・Jr。もはや誰がシャーロックホームズをダサいと言うだろうか。もう一度シャーロックホームズ博物館に入ろうかとも思ったが、行列もあるし、まあ良いだろう。

シャーロックホームズはこのベーカー街に住んでいる設定である。職業は探偵コンサルタントコンサルタント探偵)。その知能を生かし、警察の捜査などのコンサルティングも行うわけだ。彼は第1作目の『緋色の研究』で、出会ったばかりのジョン・H・ワトソンと、ベーカー街221Bにあるハドソン夫人の家に下宿することになり、シリーズの大半をその部屋で過ごしている。いわばシェアハウスである。物語の語り手はシェア相手のワトソン。彼は軍医だったが、アフガニスタンでの負傷から帰国していた。そんな舞台設定は有名な話だが、有名になりすぎたためか、いつの間にか、ベーカー街221Bには実際に二人がいると思う人たちも出てきた。当時はベーカー街に221Bなる住所はなかったが、今は区画の関係で出来上がってしまい、ロイズという保険会社が入っている。今でもこの住所に手紙をよこす人は絶えず、ロイズにはシャーロックの代わりに返事を出す場所があるらしい。狂気の沙汰と笑うなかれ。それだけシャーロックホームズは人気なのである。ファンのことはシャーロッキアンないしホームジアンと呼ぶが、中には、「シャーロックホームズとワトソン医師は存在する」という前提のもとで研究をしているらしい。ドラマの「SHERLOCK」を作った脚本家スティーヴン・モファットとマーク・ゲイティスにしても、相当なシャーロッキアンで知られている。彼らの愛あっての現在のシャーロックホームズリヴァイヴァルがあるのだ。

f:id:LeFlaneur:20180703190853j:image

f:id:LeFlaneur:20180703190917j:image

f:id:LeFlaneur:20180703190940j:image

さて、ベーカー街駅で久々にシャーロックホームズ像と対面し、これからどうしようかと考えた。用意していたプランはといえば、「アビーロードに行く」くらいである。では、同じロジックで行こう。行ったことのないところは?と考えたのだが、うまく思いつかず、結局、かつて行ったけどしっかりとは回らなかったナショナルギャラリーに行くことにした。つまり、美術館である。だが、するっとそこまで行くのもつまらないので、私はロンドンのへそであるピカデリーサーカスへと向かった。なぜなら、ロンドンにおいてピカデリーサーカスだけが、毎回行っている場所だったからだ。

 

地下鉄を乗り継いで、ピカデリーサーカスへとたどり着くと、五年前と変わらない姿のキューピッド像がそびえ立っていた。いわゆるロンドンの中心地、「SHERLOCK」のオープンニングでも出てくる場所だ。五年前行った時はこのピカデリーサーカスにあるハーマジェスティーシアターで「オペラ座の怪人」を観た。というか、それが目的だったので、五年前はロンドンはピカデリーサーカスしか行っていない。それゆえか、本場のミュージカルも、ピカデリーサーカスもやけに鮮明に記憶されている。

f:id:LeFlaneur:20180709094733j:image

ピカデリーサーカスではストリートパフォーマーがたくさんいて、この時の一番人気は弾き語りのお兄さんだった。懐かしい場所のノスタルジックな気分にマッチしていたので、わたしはゆっくり聴こうとキューピッド像のところの階段に腰掛けて、街を眺めながらあれこれ思いを巡らせた。またミュージカルでも見ようか。そうと思ったが、時間がない。このお兄さんの音楽を今日のミュージカルとしよう、などと馬鹿なことを思っていると、お兄さんが新しい曲を聴き始めた。

For all the times that you rain on my parade

And all clubs you get in using my name

You think you broke my heart, oh girl for goodness sake

You think I'm crying, on my own well I ain't

ジャスティンビーバーの曲だった。知っている曲だ。それどころか、これはモントリオールで語学研修をしていた時の思い出の曲でもあった。元々は歌詞聞き取りゲームのお題だったのだが、みんな気に入って、いつの間にかカナダの思い出と化した。歌詞の内容は別れ話だが、日本人の私たちには関係ない。なんとなく、海外体験がこの場で一気に凝縮されたような気がした。ドイツ、フランス、イタリア、ヴェトナム、タイ、カナダ、台湾、ヴェトナム、カンボジア、フランス、スペイン、そして今ここロンドン。地域は広くないがいろいろなことがあった。それらは自分を見つめ直す旅でもあった。わたしにとって旅は、自分を見つめ直すものだった。自分を試し、限界に愕然とし、自分を見つめ直す。日々の生活では堂々巡りになるものを見つめ直し、試す場だった。

そしてふと思った。もう、この旅も終わる。もう少しパリにいたら、モスクワを通って日本に帰ることになる。しばらくはこんな旅もできないかもしれない。なんとなく、寂しさがこみ上げてくる。わたしはそんなことを思いながら、曲が終わったらこの場を離れることにした。まだ旅は終わってしまったわけではないからだ。過去は過去、未来は未来だ。

f:id:LeFlaneur:20180709094657j:image