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旅、映画、食べ物、哲学?

17都市目:ロンドン(3)〜Mother Mary〜

ロンドンの博物館は基本的に無料である。もちろん、払いたくなったら募金箱に払っても良い。つまり、任意である。ナショナルギャラリーに入ろうと思ったのもその辺のお財布に優しい事情があった。

 

さて、ピカデリーサーカスからナショナルギャラリーのあるトラファルガー広場までは、歩ける距離だ。散歩と行こう。私は駅を通り過ぎ、ロンドン屈指の繁華街を歩いた。かつて「オペラ座の怪人」をみたハーマジェスティーシアターを通り過ぎ、活気溢れる通りを抜け、ロンドンにまで来てしまったなぁと再確認していると、通りを少し外れたところに中国風な門があることに気がついた。そこは、中華街だった。

ロンドンの中華街は有名である。シャーロックホームズでは、アヘン窟のある場所として出てくる怪しいスポットだ。今ではわからないが、美味しい中華スポットであるのには変わりがない。とはいえ、1日だけのロンドンだ。食事はロンドンらしいものがいい。私は中華街はただ通り抜けるだけとした。それにしても中国人とインド人はすごい。人口が多いだけある。ロンドン、バンコクモントリオール、そしてパリ。どこにでも中華街、インド人街がある。

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中国感溢れる、それでいてロンドンな感じの街並みを抜けると、パブが並び、アンティークショップもたくさんある界隈に出た。まさにロンドン。パブではハッピーアワーならぬハッピエストアワーをやっている。さすが飲んだくれ帝国である。アンティークショップのウィンドウショッピングをやっていると古いロンドンの地図や古い世界地図を見た。そういえば、前回英国に行った時、オックスフォードで古地図を買った。古地図にはロマンがある。だが、バックパッカーには場所を取りすぎる。物欲を捨て、さあ進もう。

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パブでは昼食を食べようと思ったが、なぜか少々ビビってしまい、そのままトラファルガー広場に行くことにした。

トラファルガー広場。かつてフランスと英国が一戦交えた場所の名前である。英国によるヨーロッパ海上封鎖を打開したい第一執政ナポレオンは、イングランド上陸作戦を行うも失敗、次の攻撃目標をオーストリアに向けた。オーストリア帝国傘下のナポリを攻撃すべく、支配下に置いたスペイン南部のカディスからフランス海軍が出撃する。これに対し、碧眼の英国海軍地中海艦隊提督ホレイショ・ネルソンはフランス海軍艦隊の撃退を計画、トラファルガー岬においてフランス海軍に接近戦を仕掛けた。いわゆる「ネルソンタッチ」である。「イングランドは諸君が各々義務を果たすことを期待する(England expects that every man will do his duty)」の旗信号の下、縦ニ列となった英国海軍がフランス海軍の横腹をついた。激しい戦闘が起こり、多くの兵士が犠牲となった。その中には、なんとネルソン提督もいた。だが、英国はそれでも勝利したのだ。フランス側は制海権を失った。

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トラファルガー広場はその戦いの戦勝記念広場である。イングランドを示すライオンの像、そびえ立つ柱の上には犠牲となったネルソン提督が立っている。今では憩いの場で、かつて北京オリンピック中にここに来た時は、パブリックヴューイングの場所になっていた。この広場の目の前にあるのが、世界で最も有名な美術館の一つであるナショナルギャラリーだ。以前来たことがあったが、ほとんど覚えちゃいない。

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ナショナルギャラリーに来たのには理由があった。レオナルドチャレンジをしようと思ったのだ。なんのチャレンジかと言うと、ルネサンスに活躍した画家レオナルド・ダ・ヴィンチの「岩窟の聖母」に関するチャレンジだ。この「岩窟の聖母」はレオナルドによる全く同じ構図、同じ題材の真作が二枚あるのだが、片方はパリのルーヴルに、もう片方はロンドンのナショナルギャラリーにあるのだ。理由は知らない。実は昨日、ルーヴルに行き、パリバージョンの「岩窟の聖母」を拝んで来た。今日ロンドンに着いた時、ふとロンドン版も見れたら面白いなと思ったのだ。それこそ、レオナルドチャレンジである。二日立て続けに別の場所で同じ作品を見るという遊びだ。

ところが、入って見るとよくわからない。レオナルドはルネサンスの絵画コーナーにはなかった。有名な北方ルネサンスの作品、「007 スカイフォール」で007とQが話すロケ地、躍動感ある馬の絵、有名な絵を山程見ることができたが、問題の聖母には巡り会えない。レオナルドチャレンジ、案外難関かもしれぬ。私はとにかく、撮影オーケーのこの美術館で気に入ったものを撮影したり、眺めたりして楽しみながら、聖母探しを敢行した。

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さて、レオナルドはどこにあったのかというと、かなり奥まったところにあったのだ。ミケランジェロラファエロも同じところにあった。ぐるぐるぐるぐる館内を回りながらついにたどり着いた「岩窟の聖母」は、血色があまり良くなく、パリの方が温かみがあったが、ロンドンの方は神秘的なものを身にまとっていた。

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レオナルドチャレンジに成功し、わたしは今度はランチチャレンジに励むことにした。とにかく腹が減って仕方がない。しかし、すぐそこに見えるロンドンのシンボル、ビッグベンことウェストミンスター宮殿時計塔の方へ向かえば向かうほどに場所は官庁街の様相を呈し、庶民的な店など見えなくなる。いわゆるホワイトホールと呼ばれる地区だ。英国の霞ヶ関ダウニング街と呼ばれる首相官邸もある。おかげで英国ミステリには必ずと言っていいほど出てくるロンドン警視庁(スコットランドヤード)を見ることもできたが、そうこうするうちにビッグベンの真下に来てしまった。

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さてどうしよう。この辺りには多分テキトーなサンドウィッチ屋しかない。できればうまいフィッシュ&チップスか、ロンドン名物でグロテスクな形が有名なウナギのゼリー寄せが食いたい。それなら……川を越えてみよう。ロンドンを流れるテムズ川の向こう側に、わたしは行ったことがなかったのだ。よし、知らないロンドンを見に行こうではないか。