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Play Back〜ハードボイルド大学生活〜

ある大学生の日常をハードボイルドなエッセイ調に書く。

Uh, UMAMI

食べる

旨味は日本人にしか認識できない……そんなたわけたことを言う輩がいる。実際に科学的根拠がある、という野郎もいる。そういう奴らは、やっぱりだしだよね、などとぬかしやがる。だが本当にそう言えるのだろうか? わたしたち日本人が、神によって選ばれた旨味民族だとそういえるのか?

確かに、わたしたち日本人のいう「旨味」はあまり海外で目にすることはない。魚のだし、鰹節のだし、のような、そう、笑福亭鶴瓶がCMで紹介していそうな類のものは、海外にはあまりない。

だが、向こうには向こうの旨味がある。どうしても魚にこだわるのなら、北欧のニシンの燻製などには独特の旨味がある。あれを旨味と言わずして、何を旨味というのだろう? 何が、やっぱりだしだよね、だ。などと、強気に言ってみる。

魚ではないが、タイのトムヤムクンなども、やはり旨味の料理だ。ハーブが大量に入り、独特の甘辛さがあるものだから、あまり旨味のイメージがないかもしれないが、あそこから海老の旨味をぬかしたら、骨抜き料理になっちまう。海老の旨味があるから、あのスープを啜ってこう思わず言うのだ。「うまい!」

そして他の国の旨味といえば、やはり肉の旨味だろう。ヴェトナムに行った時、特にそれを実感した。特に北部ヴェトナム、ハノイは、旨味の宝庫だった。ブンやフォーと言ったヴェトナムの麺料理の汁はと言ったら、最高の旨味である。鶏肉の旨味が凝縮されたスープ。あれを朝早めに起きて、ちょっと肌寒い中すすると、五臓六腑にしみわたってくる。(南部はあまりそういうスープがないが、その代わり、肉がうまい。あれも旨味だと思う)

 

さて、前置き(実は前置きだった)が長くなったが、実は今日、わたしは最高の旨味を持ったエスニック料理に出会ってしまったのである。

わたしの大学のそばにはインドカレーの店がある。わたしと同じ大学の人間なら「ああ、あそこか」と思うだろう。ところがどっこい、おそらくそこではない。もし、「M」で始まる店のことを思っているのなら、そこではない。「S」で始まる店である。少し入りづらい外観なのだが、わたしは最近通い詰めている。

金曜日はカレーの日。それは我々日本人の胸にアプリオリに刻みつけられた、悲しき定め。そんなわけで、わたしは最近金曜日はインドカレーを食うことにしている。それで、その店にわたしは通い詰め、毎回違うメニューを頼み、その店の正解が何かを探っているというわけだ。

正直言うと、あまり芳しくはなかった。シェフの出身の問題だろうか、味付けが少々甘いのと、オニオンが効きすぎているのだ。まあ、こういうものか、と思っていた。そう、今日の正午までは。

今日はラムカレーを頼んだ。もともとラムは大好物だったし、今日はなんとなく、ラムが食いたかった。そして、その直感は正しかった。

まず驚いたのはラムの柔らかさだ。普通のインドカレー屋の羊はパサっとしている。それでもまあうまいのだが、今日のやつはひときわ柔らかい。わたしは肉の硬さにはそんなにこだわりがないが、あそこまで柔らかいと意識してしまう。

ラム肉を口に入れる。ラムの香りは(残念ながら)控えめだが、肉の旨味が噛むとジュワーっと口に広がる。まるで、断食明けの祭りのようだ。今までぐっと抑えられていた旨味たちが、噛むと解放されて、パーっとはっちゃける……うん、この例えはもう使うまい。

だが、それはまだほんの序の口に過ぎなかった。プロローグのようなものだ。スターウォーズでいえばエピソード1である。そのあと、壮大なサーガが待ち受けている。

それはカレーだった。辛味成分で真っ赤になっていたカレー。この店のカレーは比較的辛かったから、少し警戒しつつ、カレーのスープ部分をずすっとすすると、衝撃が走った。うまい。うまいのである。まさに旨味的な意味でうまい。ラム肉の旨味が凝縮されていて、正直なところ、ナンなどいらなかった。カレーだけずっと食べていられる。食べている最中に両隣の客がナンのお代わりをしたが、正直、わたしはカレーの方をお代わりしたかった。ただし、悲しき資本主義、カレーをお代わりしたら二倍の料金を取られるのでやめておいた。

久々にインドカレーを食べて感動した。それもこれも、インドにも旨味があったからだ。そして、ここの店は味付けが甘い、と言っていくのをやめなかったおかげでもある。粘って粘って、ついに正解を見つけた。色々な料理を食うからには、やはりこういう体験がないといけない。うまい、と言えるような体験。すぐに誰かに伝えたい、そんな体験。

食事は素晴らしい。そこには文化やらいろんなものがごった煮されている。そこには旨味がある。だからこれからも、うまいと言える何かを探して、どんどんエスニック料理屋に入っていこう、そう誓うわたしであった。

 

……書いていたらお腹が空いてしまったじゃねえか。