Play Back

旅、映画、食べ物、哲学?

2020-01-01から1年間の記事一覧

ヴァンショー修行〜クリスマスによせて〜

日本には酒を温める熱燗があるが、ヨーロッパにはワインをあたためたヴァンショーがある。英語ではホットワイン、ドイツ語ではグリューヴァインという。といってもただワインを温めるだけではない。クローヴ、シナモン、スターアニス(八角)などのスパイス…

一号線を「南下」せよ 〜霜月江戸前一巡道中・其一〜

東京湾を一周してみよう、と思いたったのはいつのことだったろう。 私にとって旅することは、一種の薬のようなものだった。疲れを取る薬では無い。好奇心を満たすためだけでも無い。好奇心に関してはそう言う側面もある。だが、私にとって旅することは、なん…

「普通の暮らし」〜「トゥルーマンショー」を観た〜

いろんな見方をできる映画というのがある。私が昨日見た「トゥルーマンショー」もそうだろう。というのも、私がこの映画を見た動画配信サイトの紹介文には「情報化社会」についての言及があった一方で、沢木耕太郎の映画評『世界は使われなかった人生で溢れ…

KEEP YOUR HANDS ''ON'' 最強の世界

漫画がヒットすると、決まってアニメ化や実写化の話が舞い込む。キャストも豪華になって、宣伝も大いに行われる。だが悲しいかな、大抵の場合はうまくいかない。「漫画原作の実写」というと、今では一種「地雷」のような扱いを受けるし、その主人公を演じる…

ラジオ

テレビドラマと映画がタイアップしている作品を見ると、ドラマ版と映画版とでは絵の雰囲気が違うのがわかる。技術的には、きっと、フィルムを使っているとか、使用する機材が違うとか、そういった物による違いだろう。だが、私のような純然たる視聴者からす…

アンダーグラウンド・タイフード

入ってはみたいが、入りづらい店というものがある。 それは常連でいっぱいだからだったり、店主が怖そうだからだったり、ドアがガッチリと締まっていたからだったり、閑静な住宅街の奥まったところにあるからだったりする。そういった店には人を寄せ付けない…

異邦人たること〜安部公房「内なる辺境」を読んで思い出したこと〜

大学一年生の時、プラトンの『ソクラテスの弁明』を読まされた。そしてその内容について、軽く発表を、というわけだ。もちろん一気に全部読むわけではなく、何回かに分けて読むわけだが、私は運が悪いことに、初回に当たってしまった。とはいえ、最初に読む…

魔境あるいは古本屋

そんなに古本屋が好きなわけではなかった。ブック・オフには自分の興味がある本がなさそうだったし、個人経営の古本屋には個人経営特有の緊張感というものがあって、どうもそこに飛び込もうという気にならなかったからだ。だが、それだけではなく、あまり古…

1+1+1+...+1=1

カレーを作ることにハマっている。ルーを買ってきて、煮込むわけではない。南アジア系の人が経営しているショップでスパイスを買い込み、動画サイトで理解できないヒンディーやウルドゥーやベンガリーでのレシピ動画を見ながら、レシピを確認し、できるだけ…

時計が壊れた

昨日、時計が壊れた。 私は自分の部屋に掛け時計を置いていて、時間の確認はたいていの場合その時計でやっているのだが、その時計が動かなくなった。 壊れたというと、語弊があるのかもしれない。 というのも、時計が壊れたというよりむしろ、電池が切れてい…

「すべき」と「したい」、あるいはやる気待ち

朝、めざめても、起き上がる気になれない。起き上がってしまえば、また消費される1日が始まるからだ。 暇なのではない。暇ならいい。だが残念なことに、心の奥で、何かが常に疼いているのだ。さあ、すべきことをしなさい。君にはすべきことがある。それをし…

彼らに話しかけてしまうのである

最近家族にはカミングアウトしたのだが、私は一人で家にいる時、テレビと会話している。なんなら、部屋ではYouTubeやラジオと会話している。 例えば、家族が家にいない時、よく高級料理の値段を当てるバラエティを見ていたのだが、私も不思議とそれに参加し…

口きかぬ街

ちょっと野暮用があって、東京駅の方へ行った。至急出さねばならぬ書類があり、大型連休中のため、郵便局の本局に行かざるをえなかったのだ。 2020年の初頭、人類を悩ませた流行病のせいで、街には人通りがほとんどなかった。しかし皆無ではない。私のように…

イスタンブル・マジックアワー

世の中にはたくさんの街があるが、それぞれの街にはめいめいの時刻があると思う。つまり、その街が最も美しく見える時間帯のことである。 例えば、ハノイは朝が美しい。朝もやがかかったホアンキエム湖、立ち上る湯気に感じるフォーのにおい。人々の活気も、…

5年前のペスト、現在の

面白いものを見つけた。 それは今からだいたい五年前に、私がラインのタイムラインに投稿した一つの感想文である。題材はアルベール・カミュの『ペスト』だった。 昨今、簡単に察しのつく理由でこの本の売れ行きがすごく好調だという。正直、読んだのは五年…

反抗と悲しみ

昔、国歌を聞くのにはまっていたことがあった。YouTubeにあるフィリピン国歌は、フィリピン政府かなにかの公式の動画であり、フィリピン独立に関わるシーンを集めた一種のプロモーションヴィデオになっているのだが、その中で印象的なシーンがあった。 スペ…

あえてこれを言うことを許してほしい、誰か一人くらいはこういうことを言っておいた方が健全なんだと信じてるから

警告には甘美な響きがある。 なぜなら、警告は、自分を一回り大人に見せてくれるからだ。それがいかに子供じみたことだったとしても、警告しているという行動自体に、大人らしさが滲んでいる。 「あの国は危ないから行くのをやめなさい」 「外は危険だから出…

創造的食文化

ちょっとくだらない話をしよう。 昔からずっと思っていたことなのだが、人類が忘れている驚異的な英雄がいる。カエサルやナポレオン、あるいはイエスやブッダなどを超えて、今でも多くの人々に恩恵を与え続けている英雄だ。私もその人の名前を知らない。一人…

自分探しの旅

インドに自分なんていないんだから、自分探しの旅は無意味だという意見がある。確かにそうかもしれない。なにせ、自分というものは常にそばにあるからだ。インドに行って、アフリカに行って、世界を一周して、シベリア鉄道に乗って、アメリカ横断して、見つ…

ロスト・イン・新宿〜街は生きている〜

散歩の面白さの一つは、知っている町が知らないところにガラリと変わって見えることにある。私たちが普段歩く道は、ほとんどの場合、目的地に行くための最短経路だから、見逃している景色がたくさんある。しかし散歩には多くの場合目的地などないのだから、…

ちょっと違う見方の練習

それはカナダに行ったときのこと。 モントリオールのショッピングモール回りをする企画には興味が持てなかったので、わたしは一人、街に出ることにした。適当に歩いたりしながら、わたしはある公園にたどり着いた。今でも名前を覚えているが、それはサン・ル…

23時50分の想い

「なぜ研究者にならないのか?」 とよく尋ねられる。私は今大学院にいるからだ。だが「大学にいても儲からない」「研究者になるのは難しい」等のよくある理由は私には思い浮かばない。そもそも、実を言えば、私はすごく大学院に入りたかったわけではない。 …

家に帰らないといけないのか

わたしはレストランの予約もしないし、映画のオンライン予約もめったなことがないとしない。なぜなら、予約をすれば、心配事はひとつ消えるかもしれないが、その代わり義務がひとつ増えてしまうからだ。どこかに行かなければいけない。自由な気持ちで歩いて…

新年の抱負について

あけましておめでとう。 2000年代が始まってから、もう20年も経ってしまったのかと驚いている。いや、たった20年だというかもしれない。だが、20世紀にたとえてみよう。1900年は英国、ドイツ、ロシア、そしてオーストリア=ハンガリーによる帝国の時代だった…