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旅、映画、食べ物、哲学?

常連になる

少し前、行きつけのトルコ料理屋に行った。

行きつけ、といっても、そんなにしょっちゅう行くわけでもない。なぜなら、僕の生活圏から考えると、ちょっとだけ遠い場所にあるからだ。大学のある街から2、30分歩いたところにある店である。そして、ランチ1000円と、学生にはちょいと厳しいお値段設定となっているのも、そこまでいかない理由だ。だが、時間とお金に余裕ができたら、「よし、行こう」と思わせてくれるものがあの店にはある。というのも、そこで出している「イスケンデル・ケバブ」が絶品なのだ。おっと、この料理を知らない人の方が多いだろう。イスケンデルケバブは、鶏肉を炙ったものにトマトソース、ヨーグルトソース(日本のプレーンヨーグルトよりも酸味が強く、調理用)、そしてちぎったトルコ風パン(エキメッキ)を和え、煮込んだ料理だ。エキゾチックでありながら素朴、遠い異国の料理でありながらなんとなく懐かしい。そんな料理だ。僕は初めてそれをこの店で食ったとき、うますぎて、涙が浮かびそうになるほどだった。

あの店に行くと、いつも小柄で声が若干高い(かといって甲高いわけではない微妙なライン)お兄さんがいる。彼が店主なのか、店長なのかはよくわからないが、本店は別にあるようなので、さしづめ暖簾分けしてもらった店長というところに違いない。僕が初めてこの店を訪れた時は、彼はウェイターをしていた(ウェイターなら店長じゃないじゃないかって? そんな気もするが、ただのウェイターにしては、他の店員の顔ぶれが変わる中、三年間そこに居座り続けているのだから、ただ者ではない)。それがあるとき、彼はコックになっていた。理由はわからないが、とにかく料理をしていたのだ。初めは、「やっぱり最初のコックの方がうまいな」と思いながら、イスケンデルケバブを食っていたが、だんだん腕が上がったようで、最後に食べたときには、明らかに最初のコックのイスケンデルケバブを凌駕していた。

だが、今回行ってみると、なんと彼はウェイターに復帰しているではないか。調理場にはまた別のコックが立っている。

「イラッシャイマセ」と、彼はいつにない笑顔で言った。あきらかに、「また来てくれましたね」とこちらを認識している雰囲気である。この店には通っていたものの、常連扱いを受けることはあまりなかったので、少しだけ驚きながら、僕は席に着いた(たぶん、このお兄さんがコックをやっていていそがしかったからなのだろう)。その日は暑かったので、煮込みを食う気にはなれず、今まで食べたことのなかった「トルコ風ピザ」を注文した。この店のメニューは基本均一1000円で、サラダ、スープ(日替わりで、これまたうまい! 正直どう説明したらいいかわからないが、非常にうまい)、エキメッキと呼ばれるトルコ風パン、メイン料理、デザートの「もちもちプリン(米が入った杏仁豆腐のような、それでいてもちもちした、表面を炙った、冷えた白いプリン)」、チャイ(インドのものとは違い、紅茶を濃厚に入れたもので、砂糖を入れると甘すぎず、苦すぎず、アクセントの効いた味になる)がでてくる。

トルコ風ピザもうまかった。ピザといっても、折りたたんだ形状で、スパイスの効いた肉がパンの間に挟まっている。軽食感は拭えないが、初めて食ったこともあってか、「うまい!」と脳内で連呼したほどである。

この店ではチャイがお代わりできる。僕はそれを知っていたので、プリンを食べ終わり、ゆっくりチャイを飲み終わっても、しばらく座っていた。するとお兄さんがやってきて、

「チャイのおかわり?」と言いながら、僕が返事をする前にチャイのグラスを持って行った。やっと、常連として認められたんだな、と少しだけ誇らしい気持ちになった。

今度は、新しいコックのイスケンデルケバブの腕前を見てやろうじゃないか。そう、僕はもう常連として認められたのだ。

などと、バカなことを考えている。