Southern Europe 2019
世の中にはたくさんの街があるが、それぞれの街にはめいめいの時刻があると思う。つまり、その街が最も美しく見える時間帯のことである。 例えば、ハノイは朝が美しい。朝もやがかかったホアンキエム湖、立ち上る湯気に感じるフォーのにおい。人々の活気も、…
ソフィアでやることはもはや枯渇していた。だがホテルもとっていないので、帰るところもない。帰るところがないというのはゾクゾクを超えてワクワクするものだが、こういう場合は困ってしまう。どこか一休みできるカフェはあるか。そう思いながら眺めてみて…
NDKこと、国立文化宮殿は、繁華街になっているヴィトーシャ通りをまっすぐ行ったところにある。観光地の割には人影がまばらなこの通りは、今まで歩いてきたソフィアの地区と比べれば、穏やかな空気が流れており、いい感じである。レストランが軒を連ねる道の…
バスを降りた瞬間、違う世界にいると悟った。まず空気が違う。突き刺すように朝の空気は寒い。ギリシアの暖かい気候とは違う。それに、バスターミナルのカフェテリアのおばちゃんは無愛想で、英語が通じない。そんなことは当たり前である。ここは英語圏じゃ…
一人旅が性に合っていると思っていた。それは多分そうなんだと思う。だが、今まで7人もいたのが、一気にいなくなるとなると話は変わってくる。ソフィアに発つ日、私は孤独のどん底に突き落とされ、不安に震えた。一人で台風を台湾で二つもやり過ごし、バルセ…
アゴラをあとにした後、私たちが入ってみた教会は今までに見たことのない風情であった。正教会というと、私は二度目になるが、事実上初めてと言えるだろう。というのも、以前中に入ってみたモスクワの聖ヴァシリー大聖堂は、中に部屋がたくさんあって、正直…
アクロポリスの丘を降りて、私たちは行くあてもなく、日差しの差し込むアテネの観光地を歩いた。出てきたのはバスの停車場などがあるところのようで、ガランとしている。無数のシャボン玉を作る大道芸人がいて、そのシャボンに包まれながら、まるでニンフか…
朝になると、街の様子がよく見えるようになった。ホテルを出て、考古学博物館の横を通ると、手榴弾やら催涙弾やらが、熟れたオレンジと一緒に落ちている。やはり昨日の銃声は本物のようだ。街を歩くと、壁という壁に落書き。まるで、耳なし芳一の如しである…
アテネのホテルはびっくりするくらいいいところだった。一人三千円くらいだが、中高級ホテルの風格がある。それに真っ先に気付いたのは、着いて早々ウェルカムドリンクとしてしぼりたてのオレンジジュースが配られた時である。暑かったし、ありがたい。ウェ…
パトラからアテネまでは電車が断絶している。だから、中間地点のキアトまでバスで接続しないといけない。そのバスはというと、パトラ駅の前から出ていた。さっと食事を済ませ、バス停まで行くと、運転手はむすっとした顔で、早く荷物を入れろという。もう出…
パトラの港の使い勝手はバーリのそれと比べて格段に良かった。船から降りて少し歩いたところにシャトルバス乗り場があり、そのバスに乗れば、すぐに中心部まで運んでくれる。ただ、もしかすると、気づかなかっただけでバーリにもあったのかもしれない。 パト…
「乗客の皆様。まもなく、我々はイグニメッツァ港に到着いたします。乗客の皆様はお忘れ物のありませんよう、お降りください」 朝5時30分ごろ、やけに大きな音のアナウンスで私は目を覚ました。降りなければいけないのか? でもイグニメッツァといえば、コル…
祖父は船会社を営んでいた。そのせいか、船の旅というものに漠然とした憧れがある。船はすごい。この地球の七割が海だというから、船を使えば脚を使う以上にどこまでも世界を巡ることができる。 船体験は今年の3月までは、3度ほどあった。まずは伊勢の方から…
「カステル・デル=モンテに行くにはどうしたらいいですか? 確か冬はタクシーしかないって」 「そうだね、遠いよ。バーリの町には来たことあるのかい?」 「いえ、初めてですが」 「じゃあ、バーリを見なさい。港もあるし海も綺麗だ。今日は天気もいい」 ロ…
サンタンジェロ城を一人で見た後、私は三人の友人とナポリへと向かった。 イタリアはこれで3度目になるが、いわゆる南イタリアには一度も行ったことがなかった。ナポリ行きを決めたのはそれが理由である。一人でも行くつもりだったが、なんやかんやで四人に…
ローマは思ったより寒かった。 以前一度冬に訪れたことがあったが、あれはミラノやヴェネツィアなど北部の町を訪ねた後だったからか、心なしか、暖かく感じた。だが、ローマはローマで寒い。空気はしっとりしていて、ヨーロッパ特有のキーンとした寒さではな…